『カメラを止めるな!』
絡みつくような暑さが台風の影響でいくらか和らいでいた7月末、
映画『カメラを止めるな!』を観るため、私は池袋のシネマロサに赴いた。
チケットは完売で、口コミでその面白さが広まりつつあることを実感しながら、
地下へと降りる階段を下って行く。
劇場の扉の前に置かれた顔はめパネルには多くの人が列をなし、
これから始まる映画への期待をますます高めてくれる。
上映前に流される予告のラインナップも個性的で、ここが映画好きのための場所であることを感じさせてくれた。
さて、そうして始まった映画だが、前半の『ワンカットオブザデッド』の時点で、
観客の間ではすでにちらほらと笑いが起きていた。
主人公となる女性、松本逢花(秋山ゆずき)が都合よく斧を拾うシーンなど、
初見の自分にとっても笑えるシーンはいくつもあったが、
2度目、3度目と観ている人にはほとんどすべてのシーンが笑いを誘うものであったはずだ。
そして、『ワンカットオブザデッド』が終わってからの後半戦は、
これほど映画館で笑ったことはないというほどに、笑った。
遠慮なく笑うことができたのは、シネマロサの雰囲気もあってのことだったろう。
どこが面白かったのかということはこの後に書いていきたい。
まだこの映画を観ていない人には、ぜひ白紙の状態でこの映画を楽しんでほしいからだ。
これだけ面白い映画を観ることができただけで十分満足だったが、
さらにうれしいことに、映画が終わった直後、出演者の方々によるサプライズ舞台挨拶があった。
カメラマンの撮影助手を演じた浅森咲希奈さんなど4人がそれぞれ映画の撮影エピソードなどを語ってくれたが、
録音係の山越を演じた山崎俊太郎さんは見た目も言動もそのまま映画から飛び出してきたようで、とても面白かった。
このようにして、初めて訪れたシネマロサはまさに忘れ難い映画経験をくれたのだった。
ここからは映画の感想をネタバレ込みで書いていきたい。
まず、前半に仕掛けられた伏線を後半に鮮やかに回収していく爽快感はたまらないものがあった。
なぜ録音係の山越が消えたのか、なぜ日暮晴美が突然起き上がったのか、
後半部で解き明かされる謎には笑わずにはいられなかった。
個人的に一番笑ったのは、映画冒頭で監督が主人公の松本逢花と神谷和明を怒鳴りつけるシーンだ。
笑いだけでなく、映画監督の苦労や悲哀がこもった、この映画屈指のシーンだったように思う。
どこか抜けている登場人物たちが時間に追われながらどたばたと事態に対処していく面白さは、
『サマータイムマシンブルース』と似ているといえるかもしれない。
面白いシーンは他にもいくつもあったが、
一番心に残ったのは、この映画から感じられる映画作りへの愛だ。
監督である日暮隆之はテレビ局からの無茶な要求や癖の強い出演者たちに準備段階から振り回され続け、
放送当日も様々なアクシデントに体を張って立ち向かう。
自身が撮りたいように撮れなくても、急に監督役を演じることになっても、奥さんにけりつけられても、
何とか撮影を続行するのである。
そうした映画作りの苦労の描き方一つ一つは決して批判がましいものではなく、
むしろそれを楽しんでいるかのように愛を持って描いているとさえ感じられる。
彼の娘である日暮真央のキャラクターも、妥協を余儀なくされる父とは異なる若々しい映画への情熱を見せてくれていた。
そのうえで、すべての困難を何とか乗り越えて、
出演者たちがピラミッドを作ってクレーン撮影に成功するラストシーンには、何とも言えない達成感と爽快感があった。
この映画は低予算で作られたということで、大きな話題を呼びつつある。
この作品が多くの人の心をとらえているのは、
低予算というハンデを展開の面白さやアイディアで乗り越えているということ以上に、
監督の映画作りへの愛が随所に感じられるからではないだろうか。
あらゆる困難や苦労を乗り越えて一つの作品を完成させる面白さを、
この映画はともすれば作品を作品としてだけ消費するだけの私たちに教えてくれる。
これは、多くの人が携わって作られている映画というものを、もっと好きにさせてくれる映画なのである。
低予算でも、キャストが無名でも、どんなハードルやアクシデントがあっても、
そんな映画作りにかける情熱を感じ取れる、最高の映画だった。
この映画がより多くの人を楽しませてくれることを願って、感想とする。
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